睡眠時無呼吸症候群・在宅酸素療法
睡眠時無呼吸症候群・在宅酸素療法
睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)は、寝ている間に一時的に呼吸が止まる病気です。睡眠中、平均して1時間に5回以上起こり、それぞれ呼吸停止が10秒以上認められる場合には、この病気の可能性があります。そのほとんどは、上気道のどこかの閉塞によって、鼻・口の気流が止まってしまう「閉塞性」のSASであり、肥満が最大のリスク因子です。
主な症状は“いびき”で、眠りが浅くなるため、日中に強い眠気やだるさを生じることがあります。しかし、日本の閉塞性SASの半数は日中の眠気を感じておらず、4割は肥満ではないといわれています。放置すると、血管・心臓・脳に大きな負担がかかり、高血圧症や狭心症、心筋梗塞、脳卒中などを合併するリスクがあります。
日本には、中等症以上の閉塞性SASの患者数は500万人いるとも推測されていますが、実際に治療を受けている方は約70万人のみという状況です。できるだけ早く診断し、治療をはじめることが大切です。
原因には鼻から喉頭(のどぼとけ)にかけての狭窄があります。狭くなった気道のすき間を空気が通ることで“いびき”が生じます。狭窄は、肥満による首やのどまわりの脂肪沈着、扁桃肥大、あごが十分発育していない小顎症(しょうがくしょう)、舌根(ぜっこん)・口蓋垂(こうがいすい)・軟口蓋(なんこうがい)による狭窄など、構造的な要因で起こります。一方、加齢や睡眠時における呼吸の調節能力の低下など、機能的な要因が関連することもあります。SASは、男性では30~60歳代によくみられ、女性では更年期以降に多く、閉経によるホルモンバランスの変化も一因とされています。
検査はご自宅で行う簡易検査と、専門の医療施設に入院して行う精密検査(終夜睡眠ポリグラフPSG検査)があります。簡易検査は手指や鼻下にセンサーを装着し、睡眠中の呼吸などを調べます。精密検査は脳波計や心電計などを用いて行う詳しい検査です。
簡易検査はスクリーニング検査として、また中等症~重症のSASの発見に有効ですが、軽症の発見には精度の点で精密検査が適しています。CPAP療法の開始や手術の適応などは基本的に精密検査で判断します。患者さんにもよりますが、当院ではご自宅での精密検査も可能です。
治療には対症療法と根治療法があり、症状の程度や原因に応じて選択します。主な対症療法には、CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸)療法とマウスピース療法があります。当院ではCPAP療法が可能です。
中等症から重症に有効な治療法です。睡眠中に鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を開いて治療します。睡眠中の無呼吸やいびきが減り、眠気をなくし血圧を下げる効果が期待できます。
軽症に適した治療法です。マウスピース(スリープスプリント)を歯科で作ったあと、睡眠時にマウスピースを装着し、下あごを前方に出すように固定することで、上気道を広く保ち、無呼吸やいびきの発生を防ぎます。
原因が肥満の場合は減量が根治療法であり、対症療法を組み合わせて進めます。あごの小ささや扁桃肥大などが原因の場合は、手術が根治療法となります。鼻の病気をお持ちの場合には、マウスピースやCPAPで十分な効果が得られないことがあります。このような場合も手術を検討します。
このほかに、口呼吸の予防・治療に有効な口腔筋機能療法や、寝る向きを矯正する体位療法などが有効なこともあります。
SASは大きく分けて2種類あります。一つは、呼吸運動は保たれているものの、鼻・口の気流が止まってしまう「閉塞性」のSASです。もう一つは呼吸運動が不安定な「中枢性」のSASです。閉塞性SASは世界的にも有病率が高く、様々な心血管病と関連しています。
閉塞性SASは高血圧の原因となり、閉塞性SASの患者さんの半数に高血圧が認められ、高血圧の患者さんの約3割に閉塞性SASが合併しています。また、閉塞性SASは二次性高血圧の原因としてもっとも頻度が多く、薬物治療がなかなか効かない高血圧に閉塞性SASが隠れている可能性もあります。
閉塞性SASは心臓に負担をかけ、心機能を低下させる可能性があります。心不全の患者さんの11~37%に閉塞性SASが合併していると報告されています。SASの症状を減らしたり、息切れなどの心不全の症状や心機能を良くしたりするためにCPAP療法を検討します。
重症の閉塞性SASでは、狭心症や心筋梗塞を起こすリスクが1.7倍に増えます。逆に、冠動脈疾患を持っている方が閉塞性SASを合併する割合は、冠動脈疾患のない方の約2倍といわれています。
不整脈を合併することが多く、無呼吸の増加や血液中の酸素濃度の低下にともなって、合併頻度が高まります。特に夜間の不整脈は、閉塞性SASの患者さんの半数近くに認められ、重症SASでは、その発症リスクが2〜4倍に増えるとされています。一方、心房細動を持っている方の21~74%にSASが合併しています。
閉塞性SASがあると脳卒中の発症リスクが高まるとされています。とくに50歳以上では、脳卒中および死亡リスクが閉塞性SASでない方の約2倍という報告があります。一方、脳卒中や一過性脳虚血発作の持病があると、高率にSASを合併することが知られています。
在宅酸素療法とは、肺の慢性的な障害によって慢性呼吸不全や肺高血圧症のある方や、慢性心不全の方などが、長期にわたりご自宅で酸素を吸入する治療法です。HOT (Home Oxygen Therapy)ともいわれています。
HOTにより、息切れや記憶力・注意力が改善したり、寿命が長くなったりする効果が期待できます。また、呼吸リハビリや栄養療法を行って入院する回数を減らすことができます。酸素濃縮装置や携帯用酸素ボンベを専門の会社からレンタルして、ご自宅で使います。
*以上のうち病状が安定している方
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